2023
01.20

仕事の計画は誰がすべき?


自身がすることのできない仕事を他人にお願いしたい時、仕事を依頼する人はどうすればよいでしょうか?

依頼主が計画をつくって作業者に渡せばよいのでは・・・という答えが頭に浮かびます。現代にあってはそれは当然のことでしょう。

 

ところが歴史を遡ると仕事の計画は作業者が行い、工場経営者はその計画に口を挟むことはしていませんでした。時代が進むと経営者が労働者の直接雇用を進めることになりますが、当時の経営は「請負制」であったため指揮命令は親方任せで、経営者が直接労働者に指示命令をしていませんでした。いわゆる「内部請負制」です。工場を運営する企業は出来高に応じて「熟練工」に賃金を支払い、熟練工は労働者を雇って仕事の計画をし、作業を指揮する裁量を持っていたのです。

 

20世紀初頭の米国では工場経営者は腕のいい親方を採用できればその人に任せていればよいという時代でした。仕事はそれを任された熟練工(親方)の「成り行き」でなされることが普通でした。「成り行き」とは、すべての仕事と責任の重大な部分を労働者に任せ、作業を計画し仕事の速さを決めるのは労働者であることを指します。

 

現在の私たちの感覚とは異なり、仕事の計画と実行の主導権の両方は労働者の側にあったのです。ただし、当時の仕事状況は突出した仕事能率を一部の人が発揮することは疎まれ、皆が平準化された負荷のない仕事量になるよう親方の指示を受けながら能率をコントロールしていたのです。頑張りすぎると普通の人や体力の無い人が迷惑するからです。そのため意図的な怠勤を行うなど工場経営者との対立を招く場面もありました。

 

この近代における工場経営者と作業者との関係についてマネジメントの祖と言われるテイラーは<科学的管理法>で答えました。

テイラーの示した<科学的管理法>は、

・仕事の計画は労働者任せではなく経営者の義務とする

作業時間の研究や仕事の計画を科学的に行う

・計画と実行の分離する

というものです。これは管理監督者、作業を分析する専門家が必要であること示しており、当時は組長、職長、技師という立場はあっても、管理、監督者という役割や名称はありませんでした。「マネジメント」や「マネジャー」という言葉はテイラーの科学的管理を発端として生まれ、近代マネジメントの起点であると言われています。

 

テイラーは、経営者も労働者も科学的基準にしたがって能率的に仕事をする義務があるとしました。そのために、経営のシステム化を目指し、計画に基づく経営によって「生産性」*1を高め、労働者には合理的な仕事の進め方や洗練された道具を提供し、身体への過重な負荷を下げながら「高賃金」を実現し、他方で使用者には「低労務費」を実現することで労使双方が満足させ、その結果として労使協調を確保することが不可欠だと考えたのです。

さらには、仕事の法則を発見し作業の実行を通じてそれを発展させるのが「労働者」であり、訓練を受けて「労働者から成長した人」や、訓練を受けた「観察者」が法則を研究し記録して役立てるのだとしました。今でも通じる骨太の論理です。

 

仕事の計画は、それを実行する側にあったものが、後に計画部という部署や監督者、管理者となる人を置くことで労働者から計画が分離されていきました。同時に当時の米国社会の反発を受けましたが、科学的根拠のある「標準化」された仕事を、「実行する労働者」とその傍らでその「実行を支援、指導する立場の人」と分離していくことになっていいたのです。これは現代の日本の製造業でよく見られる「現場から叩き上げで監督者になる」や「ラインを観察し改善を行う技術系大卒の人材配置」に通じています。

 

テイラーは以前のように労使双方からの「意見」「要望」の駆け引きではなく職場の事実から導かれた法則をもとに議論することで労使のWIN-WINを目指そうとしたのです。「仕事の計画化は経営者の重要な役割である」とすることで「近代マネジメント経営」の起点となったのです。以前は作業と計画は一体して作業者に主体があったのですが、それを分離し専門家が「標準を科学的に探究し、計画する」ようになっていったのです。

 

現代の経営は経営者が株主や社員に対して計画や目標を予め立て発信します。しかし、環境変化の激しいVUCAの時代にあって事前に経営者が標準や計画を定めそのとおりに進めて結果を出すことは難しくなってきました。むしろ、現地で現場の者が判断し仮説を立ててそれを現場で検証するサイクルが注目されています。計画と実行が分離されていた近代以降の大量生産大量消費の時代から、現代にあって再び計画と実行が作業者に戻ってきたともいえるかもしれません。

100年以上を経て今まで常識とされたマネジメントのあり方も徐々に変化しているのです。

 

 

*1 テイラーは、銑鉄運び、シャベルすくい、ベアリングボールの検品、金属切削など米国のビッグビジネスにおける生産性向上を、時間や道具という経営資源に注目しながら無駄を省いて仕事の流れをつくることで生産性を高めることに注力しました。

参考:

フレデリックW.テイラー(1911)『科学的管理法』/有賀裕子訳 フレデリックW.テイラー『新訳 科学的管理法 マネジメントの原点』ダイヤモンド社

経営学史学会監修上林憲雄編著(2021)経営学史叢書第Ⅱ期3人間性『人間と経営』文眞堂

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