02.13
テイラーの思想
“人が1日にどれだけの仕事をすべきか、それに対する適切な支払いはいくらになるか、1日に最高何時間働くべきかということは重要な問題として労使で議論されなければならない。しかし、この問題を解決するのは労働組合や経営側でなく、時間研究の専門家が決定する方がはるかに良い”
これは、工場の生産性向上に寄与する合理化の3S(分業、標準化、専門化)の一つである【標準化】は、フレデリック・W・テーラーの提言です。
テイラーは、作業者の仕事を克明に観察して道具や作業方法などを徹底的に追求し、仕事を標準化することでモノやサービスを模範的基準に統一し、生産手段を最大活用し原価の低減と品質の安定化を目指しました。
テイラーが示したこと *1は、
①バラツキのある職場、仕事の中から優れた仕事を観察し、
②工学的な発想で仕事の法則を見つけ、
③仕事のプロセスを設計し、道具や環境の選択をする。→【標準化】
④<標準>を備えた人によって、計画を現場の実行者に指示し、
⑤指示した人が現場の支援をしながら、<標準>の改善を行いながら生産性を目指す。 となります。
「経験則の代わりに科学を探り出すのは普通の人間でできることであり、シンプルな改善であってもそれをうまく活かすには、各人任せの記録法、仕組み、協力体制などを体系化する必要がある」としたのがテイラーの研究であり、機械作業の科学、時間研究の科学ともいえます。
実際に標準化に取り掛かるときには次のステップとなります。
第一ステップ
分析作業に長けた人を10-15人選抜。勤務先や地域がばらついている方が望ましい
→ 模範労働者を研究します。これは現代のハイパフォーマー研究やベンチマークにつながります。
第2ステップ
各人が作業の中でどのような操作や動作をするか、基本的なものを押さえるとともに使用ツールについても把握する
→ 作業環境の設定、適切な治具の作成は現代にも通じます。
第3ステップ
各基本動作に要する時間をストップウオッチで計測し、各動作をもっとも短時間でこなすための方法を選ぶ
→ 徹底的に時間研究することが科学であるとします(当時は科学を尊重する風潮がありました)。最終的に標準時間を基準にした【公平な1日の課業】を設定します。定められた時間内に課業をなし得た場合は高い賃率で支払い、そうでない作業者は低い賃率で払う【差別出来高給制度】を導入しました。
第4ステップ
適切でない動作、時間がかかりすぎる動作、役に立たない動作などをすべて取りやめる
→ いわゆる「ムダ取り」です。標準化設定後に改善が行われるプロセスを設定しました。これが仕事の管理の王道であるPDS、PDCAという概念につながりました。
第5ステップ
不必要な動作をすべて取り除いたあと、最も要領のよい最適な動作だけをつなぎ合わせ、最善のツールを用意する。
この最善の手法を標準に据えて、まずは指導者、各部門の職長がそれを身につけ、彼らがすべての作業者に教える。そうして、時間がからずよりよい手法に置き換わる。
→ 作業現場のすべてを一人の職長が以前は管理していました。テイラーは計画と執行の分離を行いました。【職能別職長制度】の導入です。執行機能は「準備係、速度係、検査係、修繕係」の4職長を、計画機能として「仕事の順序および手順係、指導票係、時間及び原価係、規律係」を置きました。また、職場内で指導、教育することに注目が置かれました。
これらの合理的な取り組みがいわゆるテイラーの【科学的管理】であり、物的生産性を高めるヒントとして現代の企業運営にも活かされています。
しかし、私たちにとって大切なことはこれらの背景にあるテイラーの思想にあります。
テイラーのシステムの本質は、工学的思考を経営に適用したものです。
例えば、「仕事をどのような速さで行う問題を完全に経営者が決定する」ことであり、仕事の計画を経営者が担うこと(経営権)を確立することです。なので、必然的に優れた経営実践には労使協調が不可欠であると主張しました。労働者が使用者に協力しないのは、当時の使用者の意識が古く、仕事の計画が欠陥だらけであるからであり、労使が対立してしまう原因は労使が納得できる「事実」がないからだと指摘しました(「事実を重視しなさい」ということは昭和時代のマネジメント研修では口酸っぱく説かれていた内容です。現在はほぼ消滅しています)。
科学的研究に基づく経営のシステム化が実現できれば、人びとはこれを公正なものと認め、その結果として労使の協力が可能になるとテイラーは考えました。もちろん、標準品を大量に生産することを目標とするため個人の属性・能力が無視されがちであるなどの問題点も指摘されました。
テイラーがねらったのは「経験主義的で無計画にただ労働者を駆り立てるという古い経営思想を根本的に否定し、協働確保の科学的基礎を築くこと。作業者と管理者が相互に各自の義務と責任に対して根本から精神的態度をかえ、労使が密接に協働する「精神革命」を唱えた」ところにあるのです。*2。
さて、私たちは現代はテイラーの時代から進み、さらに優れた考え方を吸収しつつも、より複雑な問題に直面しています。
マネジメントの歴史的発展を眺めつつ問題のとき解き方を考えていかねばなりません。
<参考>
経営学史叢書第Ⅱ期②生産性(2022)「生産性のマネジメント」
*1 テイラー(1911)『新訳科学的管理法』The Principules of Management (2006) 訳:有賀裕子
*2 経営学史叢書第Ⅱ期③人間性(2021)「人間と経営」第2章
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